農作業安全

農作業安全に配慮した適正な作業環境への改善

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作業方法の改善

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危険箇所の表示

作業環境の改善

事業主や家族従事者、雇用している作業者が作業中に事故にあえば、経営に深刻なダメージを与えます。死亡や重傷事故が発生すれば、場合によっては、廃業せざるを得ない事態になりかねません。

農作業事故の発生を防ぐためには、営農上に潜む危害要因(危険な場所・作業・もの・状態)や、危害の程度を把握し、それを踏まえた改善策を講じることが重要です。日頃から作業手順、作業環境等についてチェックを行い、作業方法の見直しや危険箇所の明示または改善を行っていく必要があります。

農場に被雇用者がいる場合、使用者(事業主=農場経営者)には「労働安全衛生法」により労働者に対して労働災害を防止する義務があります。「労働安全衛生法」は被雇用者のいない家族経営には適用されませんが、被雇用者のいる農場同様に自身、家族の安全を守るための活動を行うことが、農場を継続するために必要です。

具体的な取組の流れは下記のようになります。

  • ① ほ場地図など農場の基本情報を確認しながら農場内の危険な作業・危険な箇所、危険な機械・器具、危険物を抽出
  • ② 過去の事故事例や農場内の事故経験などを参考に、労働災害の起こりやすさおよび健康に対する悪影響の程度を考慮した労働安全に関する危害要因のリスク評価の実施
  • ③ リスク評価に基づき、リスクが高いと評価された労働安全に関する危害要因を除去または低減するための対策(農場のルール)を設定
  • ④ 農場のルールの実施
  • ⑤ 農場のルールの実施により労働安全に関する危害要因を除去または低減できているか検証を実施。適切に除去または低減できていない場合には②からやり直し
  • ⑥ ほ場・施設・機械の変更、工程の変更等が発生した場合は②からやり直し

またリスクを低減するための対策は、以下の3つを念頭に組み合せて立てます。

  • 事故が発生する確率を下げる。
  • 発生しても被害の範囲や影響度を小さくする。
  • 被害を補償、補塡、修繕する(リスクが小さい場合、もしくは大きすぎて自らの管理を超える場合に導入される)。

農作業事故の減少に向けて、農作業安全のリスク管理に取り組むことが求められます。

<具体的な取組事例>

  • 作業手順、作業環境や危険箇所についてチェックを行い、作業方法の見直しや作業現場の改善、危険箇所の表示等を関係者で情報共有しておく。
  • ほ場は、出入口について傾斜を緩く、幅を広くする。耕作道の曲がり角は隅切りにし、路肩や側溝はわかりやすくするために草刈りを行い、路肩が軟弱な場合は補強を行う。
  • 自ら所有していないほ場や公共の道路等のために改善できない場合は、危険箇所等に関する情報を従事者だけではなく広く関係者と共有する。
  • 危険性の高い作業を行う場合は、作業者の負担軽減や危険な状況を知らせる補助者を配置する等、一人で作業を行わないようにする。
  • やむを得ず一人で作業を行う場合には、作業内容や作業場所を家族等に伝えておく、携帯電話を必ず所持する等、事故が発生した際の早期発見のために必要な措置を行う。
  • 作業委託を行う場合は、受託者に対して危険箇所や注意事項等について事前に説明し、事故防止に努める。
  • 事故が発生する可能性が高いと感じた「ヒヤリ・ハット」事例や軽微な事故事例は、危害要因を把握し、対策を講じることができる貴重な情報である。事例の原因を分析し、迅速に必要な対策を講じることで再発防止や未然防止に役立てることができる。また、これらを他の従事者と共有する。

危険な作業の例

作業ごとに、どのような事故が、どの程度の頻度で発生するか検討し、事故を起こさないための作業手順のルール化、事故が起こっても被害を軽くするための装備等を整える。

高さ制限を設定すべき事例

農産物の保管方法、保管の状態によっても、労働 安全上のリスクは高まる。資材等を積み上げる際には、高さ制限を設ける等して、安全に作業できる環境を整える。

電気柵の注意喚起

ひとつのリスクを下げるための活動(害獣の侵入防止)は、他のリスクを高める(感電等の労働安全上のリスク)こともある。農場内で新たな設備を設ける、機械を導入する等を行ったら、必ずリスクを再評価し、高まったリスクを低減するための対策を講じる。

ケーススタディ

No. 具体例 想定される対策
1 トラクター等を傾斜地や段差のある危険な場所で使用し、転倒事故が発生
  • 十分な技量を持った者にのみ操作を許可する。
  • 事故が起こりやすい危険な場所を事前に把握する。
  • 物理的な障壁を設ける等、転落防止措置を講じる。
2 耕運機の操作ミスによる挟み込まれ事故が発生
  • 十分な技量を持った者にのみ操作を許可する。
  • 作業前に操作方法を再確認する。
  • 危険な作業を禁止する。
  • 安全装置付き耕運機を導入する。
3 ほ場での一人作業の際に事故があり、発見が遅れ重傷化
  • 全員がどこで、何をしているか把握する方法を決め、戻り時間を決める。
  • 連絡方法と時間を決め、連絡がつかない場合の対処方法を決める。
4 高温時に連続して作業を続けたため、熱中症が発生
  • 作業を中止する温度、湿度を決める。
  • 時間を決めて強制的に休憩を取り、水分や塩分を摂取する。
5 風邪等での薬の服用によって眠気を催した作業者が機械操作でミスし、事故が発生
  • 体調不良の者は配置換え、作業制限を行う。
  • 服薬した場合の措置等を定める。
  • 体調等の記録を作成する。
6 長時間作業により体力・集中力が低下し操作ミスにより事故が発生
  • 作業時間のルールを定める。
  • 機械操作時間の上限設定、交代要員の確保、適宜交代、適宜休憩を実施する。
7 農産物や廃棄物の運搬時に、積載可能重量を超過した状態で公道を走行し、交通事故が発生
  • 積載可能重量を把握し、周知する。
  • 過積載走行を禁止する。

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保護具の着用

保護具の着用

作業に適した服装や保護具の適切な着用は、作業事故から従事者の身を守るために不可欠です。農作業時に適切な保護具・服装を着用していないと、作業事故の原因となることや、ケガや障害の程度を悪化させることがあります。また、適切な保護具・服装であっても、正しく装着しないと機能が発揮されません。袖口をしっかり締める、ヘルメットのあごひもを締めるなど、適切に装着しましょう。

使用する機械の説明書には、必要な保護装備が記載されていますので、これらを確認し、事故の発生を防ぎ、事故が発生した場合でも被害を小さくできるようにします。

作業内容や作業環境に応じ、安全に配慮した服装や保護具等の着用をルール化し、すべての従事者が正しく着用または装着する必要があります。加えて、保護具は、その機能が維持されているか、使用前後の点検、日常の保守管理も実施する必要があります。

<具体的な取組事例>

  • 転倒、転落、落下物等の危険性のある場所での作業や、道路走行時におけるヘルメットの着用
  • 飛散物が当たる危険性のある場所における、フェイスガード、保護めがね等の着用
  • 飛散物、突起物の踏み抜き等のおそれがある作業時における、安全靴、すね当て等の着用
  • 機械の使用に際しては、回転部に頭髪や衣類等が巻き込まれないよう、髪の毛をまとめる、帽子をかぶる、袖口をしっかり締めるなど、髪型・服装にも十分注意する
  • 高所作業時における、ヘルメット、滑りにくい靴、命綱等の着用
  • 粉塵のある作業場所における、防塵めがねや防塵マスク等の着用
  • 大きな騒音が発生する場所での作業時のイヤーマフ等の着用
  • 長時間の振動にさらされる刈払機等による作業時の防振手袋等の着用
  • 重量物を扱う場所での安全靴、サポートスーツ等の補助装具の着用
  • 寒暖差が激しい場所での防寒着、耐熱装備の着用
  • 防除作業時における、作業衣、マスク等の着用と洗浄、保管
  • 刈払機を使用する際のフェイスガードやエプロン、安全靴、防振手袋などの着用
  • 自脱型コンバインで手こぎをする際、手袋を着用しないなど、適切な保護具の着脱の実施

「労働安全衛生法」では、作業者の安全、健康を守るため、事業者が遵守すべき事項を定めています。これらも参考に、自らの農場の取組を整備します。

適切な装備の準備

危険な作業に従事する場合は、相応しい装備を整える。保護装備にも、その能力を保証できる期限があるので、確認する。

農場における周知

防護装備を徹底するため、必要な場所に掲示等で周知する。

刈払機使用時の服装及び保護具の例

(出典:(独)国民生活センター資料「刈払機(草刈機)の使い方に注意」)

ケーススタディ

No. 具体例 想定される対策
1 フォークリフト操作時にヘルメットを着用せず頭部のケガが発生
  • 機械の操作時に必要な服装・装備の一覧を作成し、装着を徹底する。
  • 定期的に装着方法を確認する。
  • 装備の重要性について教育を実施する。
2 機械の操作時に袖口が巻き込まれケガが発生
  • 機械の操作時に必要な服装・装備の一覧を作成し、装着を徹底する。
  • 定期的に装着方法を確認する。
  • 作業前に適切な服装であることを指差し呼称により確認する。
  • 装備の重要性について教育を実施する。
3 傾斜地での刈払い作業時に、履物が不適切で転倒事故が発生
  • 作業時にスパイク付き安全靴を装備する。
  • 作業前に適切な装備であることを指差し呼称により確認する。
  • 装備の重要性について教育を実施する。
4 粉塵が発生する清掃作業に長期間従事し、粉塵アレルギーを発症
  • 清掃作業も危険な作業であることを認識し、作業に相応しい装備を定める。
  • 作業前に適切な装備であることを指差し呼称により確認する。
  • 装備の重要性について教育を実施する。

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農業機械等の適正な使用

農業機械等の適正な使用

農業機械や器具等を誤った方法で使用すると作業事故を引き起こしかねません。機械等の操作に従事する際には、取扱説明書の確認等を通じて、当該機械等の危険性や適正な使用方法を理解することが重要です。

取扱説明書等により農業機械等の適正な使用方法や注意・禁止事項を確認・整理するとともに、こうした情報を販売店等から積極的に入手し、農業機械等を使用する可能性のある従事者全員に周知します。

特に、農業機械等を初めて使用する時や更新する際に事故が発生しやすいことから、適正な使用方法等を必ず確認し、従事者への周知を徹底する必要があります。

<具体的な取組事例>

  • 農業機械の目的外使用をしない。
  • 安全装置の無効化や取り外し等の改造をしない。
  • 緊急時に備えて、機械の動力遮断方法、エンジン停止方法を確認する。
  • 機械の始動、運転時には、周囲をよく確認し、付近に人を近づけないようにする。
  • 機械の回転部分の詰まり等を除去する際は、エンジンを停止し、回転部分の停止を確認する。
  • 歩行型トラクターの後進発進時に、エンジン回転数の減速、進行方向への障害物を確認する。

【農業機械の適切な使用例(乗用型トラクターの場合)】

乗用型トラクターを操作する際は、以下に注意し、安全に操作しましょう。

  • 機械の転倒、転落による事故に備え、安全キャブまたは安全フレームが装備された乗用型トラクターを使用し、必ずシートベルトを着用する。
  • 機械を始動するときには、前後左右をよく確認し、付近に人を近づけない。
  • エンジンの始動は、必ず運転席に座り、変速カバー、PTO変速レバー、各種操作レバーの位置が中位にあり、駐車ブレーキがかかっていることを確認した上で行う。
  • 左右独立ブレーキの付いた機械は、移動走行、登降坂、畔越え時、左右のブレーキペダルを連結する。
  • 急な下り坂において、走行クラッチを切る、変速を中立にするなどの走行は行わない。
  • 道路走行時は、作業灯を消灯する。
  • 作業機を着脱する際には、作業機と本機の間や作業機の下に入らない。作業機にスタンド等が付いている場合は、必ずスタンド等を使用して安定させた状態で行う。
  • 補助作業者を必要とする機械作業では、作業者の体格や体力を考慮して、作業負担が過重とならないよう作業速度等を調整する。
  • 機械から離れるときには、作業機を下げ、エンジンを止め、駐車ブレーキをかけ、鍵を抜く。
  • 機械への乗降は、機械を背にして行わない。また、ステップを踏み外さないように注意する。
  • 必ず運転席に座って運転し、座席や乗車位置以外のところに人を乗せない。補助作業者が乗車する場合は、転落防止ガードやチェーンをかけて作業する。
  • 運転時、急旋回、急発進、急停止はしない。また、作業中に機械から飛び降りたり、クローラーに足を掛けて乗り降りしたりしない。
  • 作業機への巻き付き、詰まり等を除去する際には、必ずエンジンを止め、作業部分の停止を確認した上で行う。また、油圧式の昇降部を上げている場合は、必ず昇降部落下防止装置を作動させておく。

乗用型トラクターの安全域

トラクター死亡事故の最大要因である転落・転倒の際、乗員を守るための安全キャブ・フレームは、シートベルトを装着してはじめて十分な効果を発揮する。

乗用型トラクターの片ブレーキ

路上での移動の際、左右ブレーキの連結を忘れると、ブレーキの片効きによる急旋回が発生する可能性がある。

ケーススタディ

No. 具体例 想定される対策
1 道路走行等、乗用型トラクター移動時に左右ブレーキを連結せず、片ブレーキによる急旋回が転落事故を誘発
  • 機械類は使用前に説明書、注意書きをよく読んでから使用する。
  • 作業時以外は左右ブレーキを連結することについて、作業者への教育を徹底する。
  • 片ブレーキ防止装置を搭載したトラクターの導入を検討する。
2 点検しやすいようカバーを外して機械を稼働したことにより、巻き込み事故が発生
  • カバー類や安全装置は取り外したり解除したりしない。
  • 安全装置が外されていないか、機能するか、定期的に点検する。
3 狭小区間に侵入するためにトラクターの安全フレームを取り外し、この状態で転落したことで車両の下敷きになる事故が発生
  • 安全フレーム等の安全装置は取り外さない。また、安全装置が外されていないか、機能するか、定期的に点検する。
  • 適切なサイズの機械・器具を用意し、使用する。
  • 使用する機械に合わせて作業現場を改善する。

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