これから始める GAP

農林水産省

労働者の人権を守る

近年、原料調達において労働者の人権保護への配慮がなされていることが取引先から求められる動きが国際的に広がっています。
また、国内においても労働関係法令等の遵守や労働環境への配慮などが重要となっています。このような状況の中で、農業において労働者の人権を守ることが重要です。

[事例1]採用に当たって雇用契約書の作成を求められた

A農場では、農業高校から新人1名を雇うことになりました。採用にあたり、学校からは本人と書面による雇用契約書を交わすようにとの連絡を受けました。今まで雇用契約を労働者と交わしたことはなく、何も問題が起こったことはありませんでした。会社でもないのに雇用契約書は本当に必要なのでしょうか。

雇用契約書の作成

雇用契約書は必要か?

労働基準法では、入社時に雇用契約書を作成することを義務づけていません。しかし、多くの組織では雇用契約書を作成しています。雇用契約書を交わすことで、労働者の権利を保護するとともに、労働条件を明確にすることで、労使間のトラブル防止にもつながります。

どのような取組が必要か?

雇用契約書に限らず、人を雇ったらどんなことが必要になるでしょうか。
労働基準法では、次のことを書面で明示するように決められています。

  • 労働契約の期間および更新の有無
  • 就業場所および従事する業務内容
  • 勤務時間および残業の有無、休憩時間、休日など
  • 賃金およびその計算方法、支払方法
  • 退職に関する事項 など

ほかにも、休憩場所の確保や差別環境を作らないなど、労働者が快適に最高の能力を発揮できるように配慮することは、労働者の権利を保護するとともに、農場運営の効率化や経営においても重要です。

[事例2]技能実習生との関係が悪化した

B農場では、外国人技能実習生を8名受け入れていました。毎月の基本賃金として12万円近くを支払っていましたが、6か月ほどたったときに、賃金や待遇に不満を持った技能実習生5名と、農場の管理スタッフとの関係が悪化してきました。

外国人技能実習生

関係が悪化した原因を考えてみよう!

B農場では、待遇に関して何度か実習生より相談があったにも関わらず、管理スタッフが無視してきたことが、関係の悪化につながっていました。
待遇への不満の原因は、以下のようなものが考えられます。

  • 労働が過酷だった(残業が多い)
  • 寮の環境がひどかった
  • 食事が合わなかった
  • パワーハラスメントがあった
  • 宗教的なことで差別を受けた
  • 日本人の研修生との待遇に差があった

どのような取組が必要か?

農業従事者の減少が課題となっている日本では、様々な人材の活用が重要となっています。農場で働くすべての人の人権が尊重された環境づくりが重要です。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントの禁止はもちろん、性別による差別や宗教的な差別の禁止、休憩時間の確保など、労働者の人権に配慮した取組を行いましょう。
特に外国人技能実習生は、遠い国から日本に来て、言葉も通じづらく、慣れない生活に不便や寂しさを感じることも多いはずです。多様性を理解し、日頃から話し合いの機会を設けるなど、丁寧な対応をすることが、やりがいを持って気持ちよく働ける職場につながります。

どのような取組が必要か?

コラム【従業員による意図的な異物の混入事件】

意図的に食品へ異物を混入する故意犯がいます。たとえば、冷凍食品に農薬を混入した事件がありました。この事件では工場の契約社員が逮捕されています。平成20年に発覚した中国製冷凍餃子事件も待遇に不満を持った社員による犯行といわれています。
農業従事者の中にも、このような故意犯がいないとは限りません。待遇や労働環境に対する配慮のなさが重大な事件につながることもあるのです。

[事例3]「雇用保険」「労災保険」への加入

C農場では、今まで親子だけで農場経営を切り盛りしてきていましたが、両親が年老いてきたこともあり、両親には退いてもらい、新しく従業員を雇うことにしました。
1名はフルタイム勤務なので社会保険と労働保険の両方に加入しましたが、もう1名はアルバイトで週3日勤務なのでどちらにも加入しませんでした。
2人を雇って半年を過ぎたころ、パート勤務の方が出勤時に自動車事故に会い、肋骨を骨折してしました。パート勤務の方が医療保険の相談で保険会社に連絡したところ、労災の話になり、そこで初めて自分も労働保険に加入できたことを知りました。

加入すべき保険とは

労働保険には、「雇用保険」と「労災保険」があります。
「雇用保険」は、労働者が雇用される事業であれば適用され、適用事業に雇用される労働者のうち、週の労働時間が20時間以上で、かつ31日以上雇用の見込みがある場合は、原則として被保険者となります。ただし農業では、個人事業で常時5人未満の労働者を雇用する事業(国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業及び法人である事業を除きます。)は暫定任意適用事業とされています(加入するか否かは、事業主又は労働者の過半数の意思に任されています)。
この事例の場合、パートの方の1週間の労働時間は20時間で、すでに半年以上勤務していました。
「労災保険」は、雇用形態や労働時間等にかかわりなく労災保険の適用事業である場合には適用されます。ただし、農業では、以下の場合は暫定任意適用事業とされています(加入するか否かは、事業主又は労働者の過半数の意思に任されています)。

雇用保険と労災保険

---------労働者災害補償保険関係法令より-----------
常時5人未満の労働者を使用する個人経営の事業で、次のいずれにも該当しないもの
イ 一定の危険又は有害な作業を主として行う事業であって、常時労働者を使用するもの
ロ 事業者が特別加入しているもの
-----------------------------------------------

労働者の人権保護と労働力確保のため、労災保険に加入する

暫定任意適用事業場として労災保険に未加入であっても、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合には、労働基準法に基づき、事業者が必要な療養の費用を負担するといった災害補償責任が課されており、事業者のリスク管理の観点からも予め労災保険への加入を検討することが望まれます。
GAPに取り組み、事故のリスクを低減できているからといって、リスクがゼロになることはありません。万が一、労働者が事故に遭ってしまったときに労働者の人権と健康を守り、農場の労働力を確保するために労災保険への加入で準備しておきましょう。

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