これから始める GAP

農林水産省

農業経営の効率化・充実を図る

GAPに取り組むことは、農場および経営の状況を把握することにつながるので、経営にとってもメリットがあります。たとえば、組織体制の確立、労働者への教育、生産工程の管理、情報の記録・共有など、結果的に経営基盤を強固にする内容がGAPの取組の中に多く含まれています。また、経営者自体の意識改革にも役立ちます。

[事例1]収穫中に従業員が熱中症にかかったが救出に手間取った

A果樹園は、8ヘクタール以上の広さがある大規模農園です。
残暑厳しい9月上旬に梨の収穫を行っているときに従業員のBさんが突然意識を失い、倒れました。
一緒にいたCさんは、すぐさま救急車を呼ぶと同時に、事務所に連絡して状況と場所を伝えました。Cさんが119番した際に苦労したのは、救急車に倒れた場所を伝えることでした。果樹園は広いうえに目印となるものがありません。そこでCさんは、近くにいた仲間を呼んでBさんの救護を頼み、自分は山から下って、救急車を探し誘導することにしました。そのため、救急車が到着するまでに時間がかかってしまいました。

収穫中の熱中症

今回のことでは何が問題か?

今回のことでは、熱中症になったことが問題でしょうか。それとも救急車の到着が遅かったことが問題でしょうか。
もちろん熱中症防止対策を施すことも必要ですが、緊急時に救急車が迅速かつ的確に現場にたどり着けるようにすることが重要です。
広い果樹園や田畑では、住所を電話で伝えても、地域一帯で同じような山や田畑が並んでいる場合は探すのに手間取り、救急車の到着が遅くなってしまいます。明確にわかる目印を記載した地図を作成して、従業員一同が共有し、緊急時に救急車を誘導したり、目印の場所まで迎えにいくなどの方法がとれるように準備をしておくことが大切です。

どのような取組が必要か?

農場では、いつでもどこでも事故が起こる可能性があると考えましょう。特に広い農場では、どこに作業者がいるかをすぐに把握することは難しいです。不測の事態が起こったときに、農場の詳細な地図があれば、比較的早い時間で現場に到着できます。
農場の位置情報を説明できる地図は、だれでも簡単にわかるように目印や建物も記入しましょう。これらの情報は、ただ作るだけでなく共有も必要です。
また、事故発生時の救急連絡網を作成しておくことも大切でしょう。さらに、未然に事故を防ぐ対応があれば、それも考えておきましょう。場合によっては、労働者に応急処置訓練を受けてもらうことも有意義です。
地図を作ることや応急処置訓練の実施は、労働安全の面でも、農業経営管理の面でも重要です。

農地地図

[事例2]いちごから残留農薬が検出されたが、出荷した農家の特定に時間がかかった

デザート等の加工食品を製造するD社では、「安全への取組」の一環として、納品された農作物の残留農薬を独自に検査しています。この検査の中で、E農協から納品されたいちごに基準値を超える残留農薬が見つかり、その結果をE農協に報告しました。
E農協では、いちごを出荷した全162人の農業者に聞き取り調査を行いました。162人のうち30人は検出された農薬を使用していましたが、個別の聞き取り調査で不適切な使用は確認されませんでした。そこで、E農協では自主検査を行い、基準値を超えていた2軒の農家に対し、安全性が確認されるまで無期限の出荷停止を言い渡しました。

残留農薬の検出

今回のことでは何が問題か?

E農協では出荷された全てのいちごを回収・廃棄しました。基準値を超えたいちごを生産した農業者をすぐに特定できなかったためです。 なぜ、農業者をすぐに特定できなかったのでしょうか。それは、農薬の使用履歴が記録として残っていなかったからです。

いちごの回収

どのような取組が必要か?

農業者への聞き取り調査では不適切な使用は確認できず、原因の特定に時間を要しました。そもそも、各農業者で農薬や肥料の散布等の各種活動の記録がきちんと残されていれば、結果は明白でした。
農薬を使用した時は、使用記録を帳簿に記載することが求められています。適正な使用であることを相手先に示すためにも、何が原因であったのかをたどるためにも、同じミスを起こさないための検証としても、記録は重要です。
各作業のプロセスで何をどのように行ったかを記録することで、事故につながる要因がなかったか、検証することができます。また、生産量との相関関係も知ることができ、農業経営上の有効な資産となります。

記録の重要性

[事例3]GAPが農業への参入や教育にも役立った

水稲栽培を事業の中心とする有限会社穂海農耕。代表の丸田洋氏は、2005年の創業当時、まったくの素人から農業に参入しました。
工業系エンジニア、スキーリゾート勤務などを経て、農業も同じように会社組織であり、きちんとした仕組みづくりが必要と考え、会社設立と同時にGAPに取り組みました。

(左)取締役農場長 日比昇さん、(右)代表取締役 丸田洋さん

GAPに取り組むことで販売面でのメリットも

GAPの取組は、農産物の品質確保や環境への配慮につながるだけではなく、農業者の安全確保や農場経営にも役立ちます。同社ではGAPを導入したことで新規参入の段階で大手卸業者との契約が決まるなど、販売面でのメリットも感じられたそうです。

道具の形と名前が書かれたボードの写真

人材確保・育成にも役立つ

同社の従業員は、農業未経験者が多く、平均年齢は30代と若く、労働力の確保が課題となっている農業分野ですが、GAPによるルール作りや労働環境・作業環境の整備などが、人材確保や新人教育、従業員の自主性の向上にもつながっていると感じているそうです。

※出典 新潟県が運営する農業情報サイト「にいがた農業ナビ」
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/nogyo-navi/gap-case01.html

きれいに整頓されている更衣室の写真
きれいに整頓されている作業記録の写真

[事例4]GAPの団体認証に向けた取組の中で、作業の見える化による効果を実感

GAP認証を取得したのは、北陸にあるJA北魚沼(農業協同組合)。
規模の小さい農場が単独でGAP認証を取得するのは、金銭的にも労力的にもハードルがあります。そこで、複数の農業者がまとまって認証を取得する「団体認証」の取得を目標に掲げ、JAが団体認証の事務局として、様々なサポートを行うことで、より多くの農業者がGAPに取り組むことを目指しました。

JAと二人三脚の取組で、GAP認証を取得

GAP認証では、決められた管理点と適合基準を満たすように環境整備をすることが必要ですが、それ以前に、GAP認証に向けてまず何から取り組むかが分からないという声も聞かれます。JA北魚沼では、農業者が使いやすい農場用マニュアルやオリジナルの看板の作成のほか、研修や現地視察の実施など、農業者と一緒に考え、悩みながら取組を進めて、GAP認証を取得しました。

研修会の様子の写真

記録を残し作業の見える化を行うと、さまざまな利点が見えてくる

GAPでは、あらゆる作業に関して記録を残します。農業者の中には、記録を残すということに慣れていない方もいます。しかし、記録を残すことによって作業を見える化し、その記録を活用することで、さまざまなメリットも見えてきます。
たとえば、作業記録を付けることで、販売先からの問い合わせにいつでも答えられるようになり、販売先の信頼が得られて販路の拡大につながったという声がありました。
また、農薬や肥料の在庫を記録しておくことで正確な在庫量を把握でき、過剰在庫や農薬期限切れなどの無駄がなくなるなど、計画的な資材調達が実現し、資材費の削減につながったという声もありました。

制作したオリジナル看板の写真

JA北魚沼では、GAPの取組に向けて農業者との定期的な面談や作業記録の確認をすることによって、農業者との交流機会が増え、JAと農業者との信頼関係の強化にもつながっていると感じています。

※出典 新潟県が運営する農業情報サイト「にいがた農業ナビ」
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/nogyo-navi/gap-case03.html

GAPに取り組むことは、食品の安全を守り、環境を保全し、労働者の安全と人権を守り、ひいては農業経営の効率化につながります。
これからもより良い農業を続けていけるように、また、より良い農産物を消費者にお届けできるように、できることから取り組んでみましょう。

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