食品の安全を確保する
食品の安全は消費者が特に重要視する課題です。実際に生産現場で起こりそうなケースをご紹介します。
どうして問題が起こってしまったのか、どうすればよかったのかなどを一緒に考えてみましょう。
[事例1]脚立で蛍光灯を割って、破片が野菜の上に落ちた
作業場で収穫した野菜の箱詰めをしているときに、一人の作業者が大型の脚立をもって作業場に入ってきました。彼が脚立を持ち替えたときに、脚立で天井の蛍光灯を割り、破片が作業場に飛び散ることに。箱詰めをしていた作業者はケガをし、野菜を詰めようとしている箱にも細かい破片が入り込んでしまいました。

事故で異物混入の危険!
作業場にはさまざまな荷物を運び込むので、天井の蛍光灯が割れることは、発生する可能性のある事故です。また、蛍光灯は雷などの過電圧でも割れることがあります。
雪国などでは、雪の重みでガラス戸が割れて農産物を入れる容器に混入したという事例もあります。異物混入は、至るところで発生する可能性があります。
どのような取組が必要か?
蛍光灯に限らず、照明ガラスの破片が異物として農産物の容器に混入してしまっては大変なことになります。作業場などの照明には、保護カバーをかけるか、飛散防止の加工がされたランプを使用しましょう。
[事例2]保管していた粉剤農薬が使えなくなった
農薬の管理に気を配っていたA農場では、作業場に農薬専用の棚を設置し、施錠できる保管庫に保存していました。ところが、棚の下に入れていた粉剤の袋に液剤がこぼれ、粉剤の中まで浸透してしまったため、粉剤を廃棄しなければならなくなってしまいました。
粉剤は量が多いため棚の下段に管理し、液剤などは取り出しやすい棚の上段に保管していました。何が問題だったのでしょうか。

農薬の保管方法にはルールがあるのか?
農薬は、「毒物及び劇物取締法」、「消防法」によって取扱方法が定められていますが、各農薬の保管位置などについての記載はありません。
法令を守ること以外にも、現場の状況によっては、さらに改善した方がよい場合もあります。それぞれの現場での保管状況を確認し、適切な保管方法を検討しましょう。
他に考えられるリスクは?
今回は粉剤の廃棄だけで済みましたが、万が一、薬品同士が化学反応を起こして有毒なガスが発生してしまった場合、自身や周辺の健康や環境に被害が及ぶ可能性があります。
今回は棚の施錠はされていましたが、施錠されていない場合、農薬が盗難にあって犯罪に使用される可能性もあります。意図しない犯罪行為に巻き込まれないためにも施錠は重要です。
どのような取組が必要か?
今回の原因は、棚に保存するそれぞれの農薬の位置関係と、漏れても被害を少なくするための対策がなされていなかったことです。
例えば、粉剤を液剤より上に保存していれば、このようなことを防ぐことができます。
では、農薬を保管するときは、他にどんな点に気をつけるべきなのでしょうか。
- ①もともと薬剤が入っていた容器で保管し、決して飲料のペットボトルなどの他の容器に入れ替えない
- ②農薬の流失防止のためにコンテナトレイ(液体を十分に受け止められる容積のもの)に薬剤を保管する
- ③施錠できる保管庫に保管する
- ④流出したときのために塵取り、ほうき、砂などを常備しておく。流出したときは砂などで農薬を付着させて薬剤を回収する
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粉剤や水和剤を上に、液剤や乳剤は下に保管する
【注記】写真は事務ロッカーを活用した例 -
コンテナトレイ(引き出し)は、液が漏れ出しても十分に受けきれるだけの容積にする
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施錠できる農薬保管庫で農薬を保管する
【注記】写真は事務ロッカーを農薬保管庫に使用した例 -
開封後の農薬は、クリップやテープで封をする
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漏れてきたときに清掃するために、ほうきや塵取りを用意しておく
[事例3]出荷した葉物野菜から食中毒の原因菌が検出された
B県では最近、野菜サラダを原因とした食中毒事件が発生していたため、C農協では納品された野菜の抜き取り検査を自主的に進めていました。その検査の中で、D農場で生産した葉物野菜に食中毒の原因菌が見つかったのです。
D農場では、病原微生物による汚染を防止するため、安全確認した地下水を使用し、完熟堆肥を施用し、従業員には定期的に検便を実施し、衛生管理には十分に気を使っていました。
病原微生物の汚染は様々な経路で発生するおそれがある!
D農場では作業員に手洗いなどの衛生管理を徹底していました。では、いったいどこに病原微生物汚染の原因があったのでしょうか。
原因をはっきりとは特定できませんでしたが、農場内に野生動物の糞便が見つかったこと、作業場にネズミが入った痕跡があったことから、これらの野生動物により病原微生物が持ち込まれた可能性が示唆されました。病原微生物の汚染は様々な経路で発生するおそれがあります。

野生動物などの侵入対策にはどのような取組が必要か?
農場内に野生動物やペットが入り込むと、収穫物に接触して動物が保有する病原微生物による汚染が生じる可能性があります。まずは、農場内への侵入対策をし、野生動物などが施設内に入らないようにしましょう。
- ①収穫物の残渣は放置しない(クズ野菜などの放置は野生動物の格好のエサ場となる)
- ②耕作放棄地、農地周辺のヤブや草むらの草を刈る(野性動物の通り道や隠れ場をなくす)
- ③栽培施設・調製施設は、野生動物などが入らないように、壊れた部分の修理などをする
- ④施設内を定期的に点検し、野生動物などの侵入があれば、適宜駆除し、ふん便等で汚染されていれば清掃・消毒する
栽培から出荷までの各工程での衛生管理を徹底しましょう!
病原微生物汚染を防ぐための野菜の生産段階での対策は、これだけをすれば病原微生物の汚染を抑えられるというものはありません。生産段階での、水、堆肥、資材・機材、調製・出荷施設等の衛生管理、野生動物対策、作業者の健康管理等、生産工程を通じて必要な対策をする必要があります。
具体的な対策は、野菜の衛生管理指針にチェックリストも含めてまとめていますので確認ください。
※出典「栽培から出荷までの野菜の衛生管理指針(平成23年6月策定、令和3年7月最終改訂)」(https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_yasai/attach/pdf/index-21.pdf)

[事例4]六条大麦の収穫時にソバが混入した
秋にソバを収穫した後、同じほ場に六条大麦を播種しました。翌年は気温も高く、順調に育った六条大麦を6月に収穫したところ、六条大麦の実に加え、ソバの実も混ざって収穫されてしまいました。
ソバは、食物アレルゲンの一つです。六条大麦にソバが混入することは起こってはいけないことでした。
こぼれ落ちたソバの実が六条大麦と一緒に生長
通常、汎用コンバインでソバを収穫すると、10アール当たりで3~5Kg程度が収穫時にこぼれ落ちてしまいます。その結果、ソバの実がほ場に残り、翌年にかけ幡種された六条大麦と一緒に生長します。六条大麦は、通常はソバの実がなる前に結実します。
しかし、気温が高い年や、播種が遅くなってしまったときは、ソバの結実時期と重なることがあります。
そのため、除草作業や作付け順序には注意が必要です。

どのような対策が必要か?
ソバの収穫後、一度水田にする、または1年以上経過後に大麦の作付けをする等、作付けの順序を変更することも対策の一つです。
続けて作付けをする場合は、ソバの収穫後、大麦や小麦を播種する前に、除草作業や除草剤による防除を必ず行いましょう。特に小麦の場合は結実がソバと同時期になるので、除草を忘れず行うことが重要です。
ソバの発生が少ない場合は手取り除草にして、除草剤を使用する場合は、一年生広葉雑草対象の茎葉処理剤で、ソバが発芽して育つ4月以降に散布できる除草剤を選択しましょう。
また、大麦や小麦を播種する前に、深さ30cm程度の反転耕を行うと、ソバ種が通常より深く埋められ、発生が少なくなります。
汎用コンバインを使用する場合は、必ず作業前に機械の掃除を十分に行い、機械の中に残っているソバを取り除き、混入を防ぎましょう。
[事例5]小松菜から残留基準値を超える濃度の農薬が見つかった
農林水産省が平成30年度に行った農薬の使用状況及び残留状況調査では、調査した農家(476戸)のうち、1戸の農家で、使用量が適切でなかった事例が確認され、2点(小松菜とニンジン)で残留基準値を超える農薬が含まれていることがわかりました。
農薬を正確に計量せずに使用
小松菜1点については、ダイアジノンが基準値(0.1 mg/kg)を超える濃度(0.5 mg/kg)で検出されました。栽培した農家を調査したところ、ダイアジノン粒剤を使用する際に、使用量を正確に計量せずに、使用基準より多く使用したことが原因である可能性が考えられました。当該農家に対しては、都道府県等から農薬の適正使用の徹底を図るよう指導が行われました。

どのような取組が必要か?
農薬には、ラベルに使用回数、使用量、希釈倍数、収穫前日数、使用時期、総使用回数などが記載されています。農薬のラベルの使用方法や注意事項に従って使いましょう。
総使用回数は、違う農薬名でも同じ成分を含む農薬が多く存在するため、どの成分を何回使用したかなどを正確に記録するようにしましょう。
※出典 農林水産省ホームページ「国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について(平成30年度)」(https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_monitor/h30.html)